散水下での気中工法よりは、時間がかかっても電解によるデブリ溶解が安全では

気中工法でのデブリ回収とは、格納容器壁からデブリ機械的に削りはがして真空吸引するとかコンベア形式で格納容器外に搬出するということであろうか。この工法では、デブリが冷却液に浸かっていては削り取り作業が進まないとして冷却液の供給を止め、デブリ周辺の冷却液はウランの崩壊熱で蒸発させてから散水下で削り取ろうということであろう。しかし、振動や熱によって格納容器が破壊してしまわないか、心配である。

気中工法では、格納容器の横穴からロボットアームをデブリまで延ばすことを考えているようであるが、ロボットアームに、デブリに接触させる電極とその配線を取り付けて電極をデブリに接触させ、デブリを電解用冷却液に浸けたままデブリ中のウランを溶かし出す方法のほうが安全であろう(電解用冷却液の供給は続け、オーバーフローする液中に含まれるウランを循環系統から回収しようというものである。)。デブリ用電極と反対電極の白金やカーボン電極は、他のロボットアームを使って設置することができよう。

 

 

格納容器からの漏水受け材の材質

新聞記事によれば、格納容器底部のデブリ近くの水は熱水になっているということで、想像するに、循環冷却水が上から降り注ぐ形で供給されるが、デブリまでには十分に行き渡らず、大部分は直ちにオーバーフローして循環系統に戻る形になっているものと思われる。

従って、デブリ近くからの漏水がある場合、その漏水の受け材としては、耐熱性や耐放射線性も必要である。デブリを硝酸で溶かす場合の耐薬品性も当然必要として、考えられる材質は一般的には炭素材料であろう。そして、黒鉛質の炭素材料がより望ましいということになろう。但し、酸素とは反応しやすいはずであるから、高温で大気とあまり接することが無いように、この漏水受け材付近も窒素等の不活性ガス雰囲気となるようにしてもらいたい。

 

デブリ回収の段取りとして

デブリに電極を付けて電解還元や電流の向きを変えてアノード溶解を行うというのは、デブリ中のウランをできるだけ選択的に溶かし水溶液として回収しようというものであるが、デブリだまりがあると思われている格納容器底部の耐酸性が十分ならばこのような面倒なテクニックを駆使しなくても、硝酸で溶かしてしまえば簡単なことである(当然、臨界防止のためのホウ素存在下で。)。

報道によれば、格納容器のあちらこちらに穴が開いていて冠水方式が採れないとのこと。もし格納容器底部にも穴ができていたら、冷却水循環系統からデブリに接した水が常時漏れ出て、各所に散らばり管理できていないことになる。

気中工法実施中も冷却水を供給し続けることになろうが、振動によって穴が大きくなるかもしれないから、格納容器の底部分を含む下部全体をカバーする冷却水受けを事前に設置してもらいたい。気中工法で回収しきれなかったデブリは、硝酸で溶かすということがあるかもしれないから、冷却水受けの材質は対硝酸性であることが望ましい。

 

 

気中工法では臨界とならないのか

気中工法の利点の一つとして、冠水法では臨界があるかもしれないが、気中工法では臨界に達する可能性が低いということかもしれない。

しかし、散水しながらデブリを破砕していくようであるから、デブリ片の分布状況によっては、一時的にでも臨界状態を形成するかもしれない。そのように考えるほうが正常な人間の感覚であると思う。

とにかく、臨界に備えて、住民の方々にはしばらくの間、遠方に待避していただき、その間に作業をするという工程を組んでもらいたい。政府で、一時待避者の範囲を決めるかもしれないが、対象外であるが待避を考える自主待避者もおられるであろうから、作業開始の少なくとも半年前には、作業開始日が周知されるようにすべきと思う。

 

電解液はNaI水溶液か

電解中の液抵抗を下げるために、強電解質物質が電解液中に溶けているべきであるが、一般的に思い浮かぶNaClでは塩素イオンが、原子炉建屋鉄部材に強く作用するであろう。その点、ヨウ素イオンなら鉄に対する作用が穏やかであると思われる。また、NaIは、NaClよりも溶解度が大きく(モル換算でもNaIの方が多く溶ける。)液抵抗低下のために望ましいと思われる。電解に伴うウラン濃度変化を調べなければならないが、そのために電解液は管理されている必要があり、電解液として、天然の海水は不適当であろう。

なお、主たる電解質として、強電解質である酢酸ナトリウムを考え、電解液を弱アルカリ性としたら、鉄部材に対する電解液の作用は、より穏やかであろう。しかし、ウランが電解で液中に溶け出た際、ウランの水酸化物が生じて沈殿し、ウランの回収が行えないおそれがある。特に、多量の電解質や連鎖反応防止のためのホウ素化合物の存在下では、塩析効果によってウランの水酸化物が沈殿しやすいであろう。従って、中性~弱酸性下での電解が望ましいと思われる。

窒素ガスを流す二重管の構造について

内管と外管の間に窒素ガスを流すのは、外管に亀裂や孔が生じていないかどうかを調べるための気密検査であるが、密閉しての圧力変化調査では、配線を延ばしていったことに対する応答が遅いように思われるし、また、容積や温度の影響が大きいので小さな異常も見落とさないようにするためには適さないと思われる。従って、窒素ガス流量を監視する方法が適していよう。

因みに、1モルの気体で、理想気体なら  PV=RT

            実在気体では  PV=zRT

( P:圧力、 V:容積、 T:絶対温度[°K]、 R:気体定数、z:圧縮係数 )

なお、窒素ガスが配線の先端まで行って戻ってくるようにするためには、内管と外管の間に隔壁を設けて往路と復路に分ける必要がある。しかし、上述のように気密状況の監視のためなので、往路と復路を完全に区切る必要はなく、ガス流のガイドとなるような隔壁で十分である。たとえば、らせん板を内管の外側、あるいは外管の内側に設けてガス流のガイドにすることが考えられる。

 

 

デブリ用配線を二重構造の物の中に入れ、間に窒素ガスを流すわけ

デブリ用配線・電極をデブリに向かって延ばし、デブリに電極を形成するまでの間に、配線が液に触れて途中で断線したり、回収できずに原発構造物内に配線・電極材料を残してしまいデブリの量を増加させてしまうということがあるかもしれない。

そこで、電極形成部を除くデブリ用配線本体をたとえば二重管の内管に入れ、内管と外管の間に窒素ガスを流して、戻ってきた窒素ガス流量が減少していないかどうかを常時監視することにする。窒素ガス流量の減少があれば、外管に亀裂や孔が生じたということなので、直ちに引き上げて修理・補強して再使用するということにすれば、前述の不都合をかなり軽減できるように思われる。

また、デブリに電極形成後も一定流量の窒素ガスを流し、戻ってきた窒素ガス流量を常時監視して外管の異常を検知できるようにし、異常があれば配線・電極を直ちに引き上げることができるのならば、配線の絶縁・保護材料や内管・外管として、放射線による劣化はあるがフレキシブルな高分子材料を使用してもかまわないものと思われる。