デブリ用液状電極の検討

 デブリ用電極として水銀やガリウムを思いついた理由は、

核燃料が散らばっているであろうから、それらをできるだけ全部捕らえるため液状金属で面状にカバーしたらどうかと思ったからである。その意味では、ガリウムの融点が約30℃であるが、これよりも更に低温で液状化しているGa-In-Sn合金の利用も考えられる。

 ちなみに、

       U → U3+ + 3e-         標準電極電位:ー1.789V

       Ga → Ga3+  + 3e-         標準電極電位:ー0.529V

       Fe → Fe2+   + 2e-       標準電極電位:ー0.4402V

で、ガリウムイオン化傾向ウランと鉄の中間であり、ガリウム電極下で核燃料のウラン酸化物が単体ウランにまで還元された後、中性~酸性水溶液中で最初に溶け出すのはウランであり、次にガリウムで、鉄のイオン化防止にもなる。

 しかし、ガリウムやGa-In-Sn合金は、鉄と合金を形成したり鉄鋼の粒界腐食を引き起こしたりするなど、原子炉構造材を脆化させてしまう懸念がある。水銀は鉄とアマルガムを作らないとはいえ、このような構造材脆化は水銀利用の場合も注意しなければならない。従って、構造材を外側から支える対策をあらかじめ行っておくべきである。

原発のカソード防食等

原発処理は長期間になるということで、原子炉やその支持構造体が腐食で崩壊しないように腐食防止が考えられているであろう。実際に鉄の電位ーpH図を参考にしながらカソード防食が行われているかもしれない。

そこで、ついでにウランの電位ーpH図も睨みながら、デブリをカソードとし、たとえば白金電極をアノードとした電解を検討してもらえないであろうか。電解液は酢酸等の弱酸性でも可能ではないかと思っているが、確実なのは中性~アルカリ性下で、次のようなカソード反応とアノード反応で、まず、デブリ中のウラン酸化物を単体ウランまでに還元することである。

カソード反応: UO2 + 2H2O + 4e- → U + 4OH- (アルカリ性溶液  中での標準電極電位:ー2.39V)

アノード反応: 4OH- → O2 + 2H2O + 4e-  (アルカリ性溶液中での標準電極電位:+0.401V)

鉄とウランでは、ウランの方がイオン化傾向が大きいから、普通の水の中でウランの方が先に溶け出して鉄の腐食を防止する。溶け出たウランは回収すればよい(ウランの安全な回収が目的である)。当然、核分裂の連鎖反応防止のため、ホウ素化合物の存在下でのことであるが。

・上記のことが実際に生ずることを実験で確認してもらいたい(くれぐれも、連鎖反応が起きないように注意しながら)。

ウランの、強酸による溶解回収に対する電気溶解による回収のメリットは、より安全であること

デブリの回りに、ホウ素Bを多量に介在させて核分裂反応が臨界に達するのを防止しようとしても、硝酸等の強酸でウランを溶かしていると急にデブリの溶解が進み、ウラン濃度が臨界を超えてしまうおそれがある。ホウ素による中性子吸収で連鎖反応が生じないとしても危険である。

一方、ウランをアノードとして酢酸等の弱酸中で電気的に溶解させる場合、ウランの溶解量は電流の多少でコントロールでき、電気を流すのを止めたらウランの新たな溶解は直ちに止まる。従って、ウラン濃度の臨界防止が容易であり、より安全であると考えられる。

電解液中配線ケーブル問題

難しいのは、電解液中の配線ケーブルのことである。高放射線下で、どのようにして絶縁を確保するか。プラスチックスでは、分子間の架橋が放射線で切れ、ぼろぼろになってしまうであろう。現在の所、不十分な絶縁であるが、鉄鋼製スパイラル管の外側にセラミックスファイバー製ブランケットを巻いたような構成が思いつくくらいである。ガンマー線対策ということで鉛を含むセラミックスファイバーが望ましい。

土木建築工事によって原子炉建屋全体を高強度セラミックス製容器に入れたような状態にできるのなら、ボロンを高濃度にして臨界防止をしながら硝酸等を加えてデブリ中のウランを溶かし、液としてウランを回収できるのであろうが。

 

鉄枠のアノード溶解防止

ウランのアノード溶解中に、原子炉やその支持部材の主体であろう鉄鋼(鉄と炭素の合金)中の鉄もアノード溶解し、崩壊することが心配される。ウランと鉄の標準電極電位は、

U → U3+ + 3e-     (酸性溶液中での標準電極電位:ー1.789V)
Fe → Fe2+ + 2e-       (酸性溶液中での標準電極電位:ー0.4402V)
であり、アノード過電圧が両者で同程度なら、低電圧でウランがアノード溶解を開始し、更に電圧を高くすると鉄もアノード溶解をし始めるということになる。
 実際にどのくらい電圧をかけたら鉄が溶け始めるかは、カソードとアノード間の距離や液組成などに大きく左右されるため、現場で確認するしかない。具体的には、デブリに接触させる電極構成と同じものをもう一組準備し、その電極については、先端に鉄鋼板を付け電極を押しつけても水銀が漏れ出ないようにする。デブリまで二組の電極を延ばし、鉄鋼板を付けた電極の方で、本格的にアノード電流が流れ始める電圧以上で鉄のアノード溶解が開始するものと思われる。
 問題は、電気の漏れによりカソード電極に近い鉄鋼が、ウランのアノード溶解よりも
低電圧で溶解し始めないかということである。液中配線の外側は絶縁確保のためセラミックス繊維やプラスチックスで被覆した鉛管の使用等が検討されることになろう。
また、液中の鉄イオン濃度を大きくして電極電位を上げ、鉄のアノード溶解が生じ難いようにすることである。
 ウランがどのくらい電圧からアノード溶解を開始するかであるが、あまり試みたくないことではあるが、前述の電極構成において、鉄鋼板の代わりにUO2やU3O8の板状物を
付けたものを準備し、同じようにデブリまで電極を伸ばして、最初、カソードとしてウラン酸化物をウランに還元し、次に電流の向きを反対にしてアノード電流が本格的に流れ始める電圧と考えられる。なお、水の電気分解と区別するため、デブリ近傍に電極を浮かして水の電気分解を行った場合の開始電圧を確認しておくべきべきであろう。
 
 
 

 

U3O8の場合

核燃料のUO2は酸化されてU3O8となっている可能性が大きいが、この場合でも、次の

ような電極反応が予想される。

U3O8 + 2H2O + 4e- → 3UO2 + 4OH-  (標準電極電位は不明)

 

このUO2は、更に前述のように以下の電極反応で単体ウランに還元され、

UO2 + 2H2O + 4e- → U + 4OH- (アルカリ液中標準電極電位:ー2.39V)

そして、極性を反転させ次の電極反応で単体ウランをアノード溶解させる。

U → U3+ + 3e-     (酸性溶液中での標準電極電位:-1.789V)

 なお、標準電極電位からするとウランイオン化傾向は、マグネシウムMgとアルミニウムAlの間にあり、希硫酸等の酸性液中では水素ガスH2を発生しながらウランが溶けることが予想される。

但し、電解液の液性を硫酸酸性、硝酸酸性、塩酸酸性にすると原子炉の外枠も崩壊しかねず、単体ウランを弱酸性の水溶液中に安全に溶かし出すには、これまで記載してきたアノード溶解法が適切であると思われる。

デブリには、Fisson ProductといわれるストロンチウムSrやセシウムCs等の核分裂生成物が含まれ、現在も生成され続けているが、絶対量はウランが圧倒的多数であろうから、とにかくウラン酸化物の処理方法を優先して考えていく。

 

 

 

ホウ素含有物の添加

連鎖反応防止のため、連鎖反応を引き起こす中性子を吸収すると言われるホウ素化合物の添加が考えられ、一般的には原子炉でも使用されているとのホウ酸HBOの添加が考えられるが、水に対する溶解度は約4g/100g(20℃)であまり大きくない。つまり、ホウ酸はあまり水に溶けない。よって、ホウ酸を含むホウ素含有物の懸濁液として安全を図ることになろう。単にホウ酸のみによる懸濁液を考えても、過剰のホウ酸が結晶化して析出し、液循環の障害やウラン溶解の障害になって好ましくないものと思われる。なお、ホウ素やホウ素化合物の電極反応についても注意する必要がある。